文明時代の健康を守る 診療と研究のクリニック

 

■喘息などが治る人間形成医学の研究と実践
名古屋市の東端に、「人間形成医学」という新しい視点に立って高度な専門的医療を実践している久徳クリニック(久徳重盛理事長・院長)がある。久徳理事長は昭和54年、愛知医科大学教授を在任中、定年まで10年を残し開業した。その後、子息2人(知裕氏・重和氏)が副院長として加わっている。
同院の標榜している診療科は、アレルギー科、呼吸器科、心療内科、小児科、内科。小児、成人の気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのアトピー性疾患や、夜尿症、チック、ことば遅れ、落着きがない、極端な反発や甘えなどの小児心身症や小児の問題行動、登園・登校拒否、集団に入れない、家庭内暴力、就学・就労意欲の欠如、出勤拒否などの社会的不適応などに対し、身体医学的な従来の医療で解決が困難なケースに適応する「根本的治療」を目的としている。医療法上認められている診療科のなかに納まりきらない多様さである。
久徳理事長は30余年喘息の不思議さにとりつかれ、アレルギーを中心にした「身体医学」に始まり、心身相関を考える「心身医学」、さらに、どんな育て方をすると喘息児や登校拒否になるのか、文明が進むとなぜ少産化現象・核家族化・文明国型人間形成障害現象が現れるのかなど、”文化的環境と人間の心身機能形成"を考える「人間形成医学」へと、研究と実践を進めてきた。
■総合根本療法で重症難治性喘息は治る
人間形成医学とは、人間形成のひずみによる疾患について、環境調整療法を基本とした、生活療法および行動療法的アプローチを中心としたものという。
久徳理事長は昭和50年代の半ばに「母原病」を出版しセンセーションを巻き起こしたが、母親を責めるのが本音ではなく、親子関係の調整(環境調整の一つ)が必要と説き、「母原病」は「父原病」でもあることに気づいてほしいという念願を本書に書き記している。
気管支喘息は本来多因子性疾患であり、患者の年齢や重症度のいかんにかかわらず、その背景には心理、生理、免疫学的因子などが複雑に関与しており、1920年頃Peshkinは、Parentectomy(両親離断療法)を提唱した。
わが国においてもParentectomyの概念に沿った長期入院療法が実施されているが、久徳クリニックでは、長期入院療法では1年以上になるケースもあり、家族の心理的・経済的負担の増大、hospitalismなど長期の入院生活から派生する問題点が未解決なので、その点にも留意した「学習入院療法(重症難治性喘息短期入院総合根本療法)」を実践している。
気管支喘息の総合根本療法に基づく学習入院療法の治療成績は、昭和60年7月の予後調査をみると次のとおりである。入院の対象となった患児は、総外来受診者7.589例のうち231例(3.04%)であった。この231例は従来の考え方に従えば、長期入院療法の適応となる重症難治症例と考えられる。郵送法によるアンケートの結果168例(72.7%)から回答があり、退院後最長5年11ヵ月の観察期間中に、無発作に経過している症例が37例(2.2%)、小児アレルギー研究班基準の「軽症」103例(61.3%)、「中等症」20例(11.9%)、「重症」8例(4.8%)であった。168例中140例(83.3%)までが著明に改善していた。これら患者の平均入院日数は37日で、従来ならば「重症難治」の範疇に含まれるような症例であっても、総合医学的な対応を実施すれば、それほど難治ではなく、原則として長期入院は不要であることを示している(「学習入院療法の概略と治療成績について」呼吸器心身医学11:141-144、1994所収より引用)。
■新しい試みの成果
久徳クリニックの実践は、患児を「好ましくない家族・親子関係」から離断するという「消極的な環境調整」ではなく、「家族・親子関係」に治療者が積極的に介入・指導・教育する。具体的には、患児の入院時に親も数日間入院させ、親子のかかわり方を直接観察し、問題点の発見=分析に役立て、患児や親の理解・洞察を深め、そのことが入院期間の短縮に役立っている。患児は極端な遠方でない限り病棟から原籍校へ登校し、症状の改善に合わせて試験外泊を行い、外泊中の発作が出現しなければ退院となる。
 
しかし、学習入院療法だけで自宅に帰れない人もいる。その人のためには、「親代わり療法」を実践している(第35回日本心身医学会総会にて発表)。
これには二つのバージョンがある。一つは同院のスタッフが親代わりとなって同院の近くに下宿させ、下宿から職場などへ通えるように手助けしている。第2はヒューマンアカデミー(人間形成塾)である。長期にわたって好ましい環境で人間形成を充実させれば、成熟した人間になれることが分かったので、平成2年9月から愛知県藤岡町に開始した全寮施設で、人間形成障害のなかでも、特に親子関係・家族関係の調整が困難な症例に新しい治療技法として実践している。ただ、保険診療扱いにできないため、財政面での悩みがある。
同院の他の特徴は、ステロイド依存症例の離脱成功率70%、登校拒否症の改善90%。外来受診患者にはテープレコーダーを持参させ、指導内容を録音し反復学習させている。また、入院患者の作業療法・生活療法のために100坪の駐車場を庭につくり替え、名古屋コーチン、ウサギ、池にはドジョウ、ザリガニなどと触れ合えるようにしている。その他に、①喘息征服ジャーナルの発行、②たんれん学級、③サマーキャンプ、④喘息根治の喜びを語る会(患者の自主運営)や、昭和61年には新宿区高田馬場に分院を開設している。また、日本心身医学会の研修施設認定も受けている。
久徳理事長の「喘息は治る」との考えのもと、ご子息二人の参加も得て、これからも各種の治療成果を上げ続けていくことだろう。